小川さやか『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』(光文社新書)
ネットの書評でこの本を知りました。そして手にとったのですが、私の期待していたものは違っていたという意味で「期待外れ」でした。私が「期待」していたのは本書で扱われている内容で言えば、狩猟採集民「ピダハン」の生活や思想をレポートし、何らかの考察を加えたものになるでしょう。それは資本主義とは無関係に成立しているものです。それに対して、本書で中心にレポートされているタンザニアのインフォーマル経済は、現代の資本主義を前提に成立しているものであり、私が関心を持っていた内容とは違っていました。
また、そのような「これじゃない」という意識があったせいか、もう一つ違和感を覚えたのが何度も出てくる ”Living for today”という言葉です。タイトルの「その日暮らし」の原語です。本書の内容を”Living for today”で説明しようとするのは、無理ではないが無意味に思えます。本書で書かれている内容は、エピローグの前半でほとんど”Living for today”が使われていないことにも明らかなように、”Living for today”を使わずに説明できる事柄です。関係ない事柄に、筆者が無理に”Living for today”という言葉を冠させている感じを抱きます。”Living for today”という言葉をそこまで使いたいのならば、もっと本書でレポートされている内容から思想を深めなければならないのではないでしょうか。
もっとも、現代の時間に囚われて現在を見失っている私たちの生活をもっと生き生きさせるためのブレークスルーを経済学・社会学的に求めているんだろうなあ、という誠実な問題意識は強く感じます。私もそういう問題意識を抱いています。ぜひもっと本書の取材対象から思想を深めていただきたい。